2018年9月に、六本木ヒルズウエストウォーク5階が「プレミアムダイニングフロア」としてリニューアル。東京の食文化を六本木の地で発信する特別な空間として、選び抜かれた実力店が軒を連ねている。
▲成都の路地を思わせる門構。エントランスも地元の料理店に入っていくような雰囲気。
その一角を成す「老四川 飄香少院(ラオシセン ピャオシャンショウイン)」。店舗の脇から、厨房できびきびと働くスタッフの方々の活気がうかがえ、翡翠色の表札が威厳をもってたたずんでいる。豪華な内装を競うプレミアムダイニングフロアにおいても一際目を引く門構えだ。店内に足を踏み入れれば、四川の伝統的な白地に青の陶器の意匠をモチーフにした典雅な内装が気分を盛り上げてくれる。そこにニコニコと出迎えてくれたのが、今回の主役である井桁良樹シェフだ。
「小学校4年生の頃から料理人になる! と心に決めていました。冷蔵庫の中にあるものを、手あたり次第使って料理を作ったりしていましたよ」
まるでサッカー漫画の主人公のように、幼いころから才能ほとばしる少年だったようだ。料理全般が好きだったが、高校生の頃、近所にできた中華料理屋さんで口にした回鍋肉に強い衝撃を受け、中華の魅力の虜になったという。
「すぐに頼み込んで、そのお店でアルバイトを始めました」
まっすぐな井桁少年はそのお店でのアルバイトがとても楽しかったという。その後、18歳からプロの料理人として就職したものの、日本で学べば学ぶほど本場への情熱が頭をもたげ始める。
「日本で食べることができる中華料理と、本場の味の違いがどのようなものか、どうしても自分の舌で確かめたかったんです」
▲井桁シェフの目指す四川料理は「老四川」と呼ばれる古き良き料理。「辛い!」というイメージが日本では先行しがちな四川料理だが、優しく奥深い味の料理も本当はたくさんある。
その後、29歳で本場中国へ。上海での日々を経て、四川省・成都の地を踏む。驚くほど多種多様な香辛料の魅惑的な香り、それらが広がる広大な市場に圧倒される。
「ここに本当の中国が息づいているんだ! と強い衝撃を受けました」
四川省の食文化においては、その馥郁たるスパイスたちが織り成す複雑な香りが非常に重要な役割を担う。
「四川料理の肝となるラー油に用いるスパイスからして、全く種類の総量が違うんです。カルダモンも生姜も種類がたくさんある。野菜は味が濃厚で、パワフルです」
瞳を少年のように輝かせ、本場四川料理との出会いを語ってくれる。2018年だけでもすでに3回、本場中国を訪れているという。
元々、羊肉は素材として好んで料理に使っていたと語る井桁シェフ。四川料理で羊を使うメニューは決して多くないが、銀座店の頃からの看板メニュー「悪大王のスペアリブ」や、「スパイス香るラムと香菜の水餃子 四川ソース」など、要所に羊とスパイスへの愛が光る。
「クミンは羊のためにこの世に生まれてきたスパイスだと思っているんです」
と語る井桁シェフが羊を調理する際に気を付けているポイントは、クミンだけでなくその他のスパイスとのバランスを注意深くとること。そして、羊の肉のあしらいに「名脇役」としてよくジャガイモを添えるという。素揚げやマッシュポテトなど、様々なアレンジが利くジャガイモは羊の脂に寄り添い、うまみを引き立ててくれるそうだ。
「一昔前は、羊の料理を“いろんなお店が一生懸命、工夫して置いてみている”という状況が多かったという印象ですね。今は、ある程度羊の味わいが皆さんの舌に定着して、羊の特性を生かした使い方をするお店が増えてきた。羊の支持ができてきたということですね。嬉しいです」
▲穏やかな人柄の井桁シェフ。しかし、四川料理へ対する情熱は驚くほど深い。
今回オープンした六本木ヒルズ店については、
「様々な働き方をされている方がいて、海外の方も多くいらっしゃる立地。料理という表現を通じて、四川について発信するのにピッタリの場所だと感じています。コースメニューで四川料理をじっくり楽しんでいただける麻布十番店と対比させ、この六本木店ではアラカルトで四川名菜を味わい楽しんでいただける、立ち寄りやすいメニューで構成しました。ぜひ気軽にお立ち寄りください」
アラカルトで存分に伝統四川料理の風を感じることができるメニューの顔ぶれは、「肝油海参(伝統四川名菜 ナマコと豚レバーの煮込み)」、「神仙鴨子(鴨の柔らか煮)」などの濃厚な歴史を感じさせるものに始まり、一見すると鳥料理とは思えない不思議な「雪花鶏淖(鳥のすり身のふわふわ炒め)」、「上上籤(鶏の四川式おみくじ 青山椒の香り)」など、遊び心あふれる名菜までバラエティ豊か。そしてかつて井桁少年を魅了した“初恋のひと皿”である「老塩菜回鍋肉」もちゃんとお目見えしている。
料理人として、自らが味わった感動をお客様に伝えたい、伝統四川料理の力強さと繊細さを伝えたいという、真摯な情熱を余すところなく表現しつづける井桁シェフ。伝統四川料理の第一人者との呼び声高く、多くのファンを集めながら、終始気さくに少年のような笑顔で語ってくださった姿がとても印象的だった。スパイス香る、新たな発信地「老四川 飄香小院」六本木ヒルズ店の歴史はまだ始まったばかり。あなたもぜひ井桁シェフのパッションあふれる発信を、この地で感じ取って欲しい。
【店舗詳細】
●店舗名:老四川 飄香小院
●電話番号:050-3177-4848(予約専門)
●料理ジャンル:四川料理
●住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ ウエストウォーク5階
●営業時間:
【ランチ】
11:00~15:00(L.O. 14:30)
【ディナー】
17:00~23:00(L.O. 21:30)
●定休日:毎週火曜日
●座席数:50席
●個室の有無:有
●禁煙席有無:全席禁煙
●URL:http://www.piao-xiang.com/