「お客さんとはすぐに仲良くなって、『シェフ』ではなく『おっくん』と呼ばれるんです」という奥野氏は、都内に複数のイタリアンレストランを経営している。和歌山の割烹料理店が実家という環境で育った彼は小さな頃から、食べるのが大好きな両親に連れられ寿司やフレンチなどで食事をし、食の英才教育を受け育った。本人は本格的なレストランなどの大人の味を体験することは「当時、あまり嬉しいと思わなかった」というが、それが奥野氏の舌を鍛えたのは想像に難くない。
高校卒業後、料理人はならずアメリカの大学へ留学。大学へ通いつつ働いていたギリシャ料理店でも羊肉料理を食べる機会が多々あったという。大学卒業後に日本で企業に就職をしたものの、自分の目指す方向ではないと考え、料理の世界へ舵を切る。イタリアで、8州にわたって星付きレストランで修行しながら、地方色豊かなイタリア料理の技術や知識を身につけ帰国し、東京でリストランテを開いた。
▲白を基調にした広い空間はいろいろなシーンに利用できる。
専門とするイタリア料理には羊肉が欠かせない食材で、六本木にある奥野氏の「リストランテ ラ・ブリアンツァ」でも、開店から18年間ずっと羊肉がメニューにのぼっている。ちなみにイタリアでは、季節と料理や食材が深く結びついており、春のローマでは「スコッタディート」という子羊の骨付き肉を焼いた料理が定番だとか。
奥野氏は、今後、料理の世界でもさらに「健康」というキーワードが重要になると見ており、低脂肪かつ栄養素に富んだ羊肉は、今後ますます注目されるのではないかと語る。こういった観点から、オージー・ラムについても、ホルモン剤不使用である点を評価する。
日本では、一般的に「シェフ」はずっと厨房にいるものという姿を期待されがちだが、奥野氏はこれを変えていきたいと語る。料理のおいしさを構成するのは、料理の味だけでなく、価格や誰と一緒に、どんな雰囲気の中で食べるかということにも大きく左右される。自身は日々厨房に立つ料理人でもありつつ、経営者やコンサルタントとして、多くの人に「おいしい」と感じてもらう場をもっと広めていくことにも重点を置いている。今年にも新たな店舗を設けることを計画しており、奥野氏の攻めの姿勢から目が離せない。
奥野 義幸
「リストランテ ラ・ブリアンツァ」オーナーシェフ
1972年大阪府で生まれ、和歌山の割烹料亭を営む家庭で育つ。大学進学時に渡米し、卒業後は日本での会社員生活を経て、料理の世界へ進む。都内のイタリア料理店での修行後、イタリア各地の星付きレストランで働きつつ、現地の技術や文化を学ぶ。帰国後、オーナーシェフとして「リストランテ ラ・ブリアンツァ」を開く。現在、都内で3店舗のリストランテの経営に加え、海外での店舗プロデュースなども行う。